3月になると、日差しが暖かくなり足元ではちらほら花が咲いてきます。
すると、それを待っていたかのように、動き始める虫たち。
その中の一つにビロウドツリアブという名前の虫がいます。
一般に昆虫は、頭胸腹に体が分かれています。
くびれがあったり、節があったりして、いかにも虫という姿は苦手な人もいるかもしれません。
でも、ビロウドツリアブは見た目は小さな毛玉。
モフっと丸いシルエットです。
もちろん、昆虫だから体は分かれているのですが、
全身が毛で覆われているので、その境目が分からないのです。
毛玉に目と脚と翅を付けた様な見た目は愛らしささえ感じます。
体の中で特徴的なのは、目の間から伸びる太い針の様な口。
アブというと、人を刺すという印象を抱く人が多いと思うので、
ビロウドツリアブも危険と思うかもしれません。
でも、大丈夫。ビロウドツリアブの口は、花の蜜を吸うための物で、人は刺しません。
早春、花が咲き始めた野山の地表をビロウドツリアブは飛んでいます。
まだ草の少ない地面と同じような茶色で、
大きさも1cmくらいなので、止まっていると気づかないかもしれません。
でも、オオイヌノフグリやホトケノザ、タチツボスミレなど
咲き始めた花のそばでは、花から花へ次々と飛び回り蜜を吸っています。
ホトケノザのように奥に向けてすぼまった形の花には、あの針のような口の形が便利です。
チョウやハチのように花に止まって蜜を吸うこともありますが、
ビロウドツリアブはホバリングという特技を持っています。
高速で羽ばたくことで、ハチドリのように空中に静止したまま
口だけを花に差し込んで蜜を吸うことができます。
その様子が花から吊り下がっているように見えるから、ツリアブというのだとか。
止まらずに隣の花へ次々と移りながら蜜を吸うのはとても効率的です。
ビロウドツリアブは、日当たりの良い斜面の落ち葉で止まって休んでいる姿もよく見られます。
満腹になって休んでいるのでしょうか。
止まっている姿をよく見ると翅には波打ったような模様があり、何となく日本刀のようです。
こんなビロウドツリアブが見られるのは、3月から4月の僅かな間だけ。
その間に交尾を終え、卵を産み落とします。
卵から孵った幼虫は地面に掘られたヒメハナバチの巣で花粉や幼虫を食べて成長するのだとか。
でも、次の春に出てくるまでの詳しい生態はあまり分かっていません。
一年近くの歳月をどのように過ごしているのか、とても興味深いですね。
そんな謎も魅力的な春の使者ビロウドツリアブ、花咲く森でぜひ探してみてください。
さかでぃ
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【さかでぃ:プロフィール】
自然や環境のメッセージを人に伝えるインタープリター。
幼少期は虫捕り少年。
大学で水産学や動物生態学を学ぶ中で
科学コミュニケーションに興味を持ち、環境教育の道へ。
現在は、一児の父としてかぷかぷに参加中。
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